トリ

この前のスッパバンドのライブの時、皆にロクに挨拶もせずスタコラサッサと帰ったのは、次の日が早いという理由ももちろんだけど、「通り魔が新宿にいるらしい」というニュースを同居人から聞いて、外にいるのが怖かったからなのです。その日の中央線の駅には警官がいっぱいいて、やっぱりこの辺にいるんだと思って震え上がり、お腹をバッグで守り、音楽を聞いたり本を読んだりしていると生物としての警戒心が弱まるから何も聞かず読まず、駅を降りたらすぐにタクシーに乗って帰ったのでした。タクシーを降りて、やっとこさ家に帰るとドアの所に大きな蛾が止まっていて(蛾という字を書くのも嫌なくらい蛾は嫌い)外は敵だらけだからもう嫌だ、と心底思って引きこもりの人の気持ちがよく分かりました。
しかし、金曜日の夜には、わたしは新宿の街をデイヴ・ブルーベックを大音量で聞きながら上機嫌で歩いていたのです。そしたら警官とすれ違って、あ、通り魔のことすっかり忘れてたということに気づきました。こういうとき、自分は人じゃなくて、本当はトリとか、虫なんじゃないか、と思います。