第?次村上春樹ブーム

村上春樹の作品を最初に読んだのは13,4才くらいのころだったと思う。ちょうど、コドモ向けの本は物足りなくなっちゃって、でも、親の本棚にある谷崎潤一郎大江健三郎三島由紀夫はむずかしい、と思ってたころのわたしにとって「羊をめぐる冒険」とか「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」はとにかく読みやすいし、おもしろいし、授業中も読むのを止められないくらい夢中で読んだものだった。小説の中でかかってる音楽をかたっぱしから聴いて、洋楽が好きになったりもした。でも、「国境の南、太陽の西」を読んで「なんてつまんない、しかも嫌な感じでエロい小説なんだ」となんとなく気持ちが傷つき、「ねじまき鳥クロニクル」は単行本で3冊と、高かったので高校生のお小遣いでは買えず、そのまま新作を追うのをやめてフェードアウトしてしまった。その後、文系の人にありがちなひねくれたマイナー志向が悪化し、大学に入った頃には「村上春樹なんて、ちょっとね・・」と思うようになった。わたしに限らず、同じゼミで先生が行った「村上春樹は好きか」というアンケートでは、1,2人を除いてほとんどの人が「嫌い」と答えた記憶がある。母校なのに・・とびっくりしたのではっきりと覚えている。これはわたしたちの世代の特徴かもしれないけど、とにかくあの頃は、ストレートじゃなくて、マイナーなものが好きでひねくれてるのがおしゃれっぽかったのだ。10年も経たないのに時代はかわったものだ。
それから何年かして、人間関係ですごく傷つくことがあった時に「アンダーグラウンド」を手にとって読むようになった。「アンダーグラウンド」を読むと気持ちが落ち着くから夜寝る前に少しずつ読んでいる、と知人に言うと「それはそうとう深刻な状況ですね、大丈夫ですか?」と言われてちょっとおどろいたけど、今となっては、確かにそうだよなーと思う。テロ行為によって極限状態に置かれた人々の心理に共感するなんて、シリアスすぎると思うけど、あの時はそういうモードだったのです。それがきっかけで、春樹熱が復活し、「神の子どもたちは皆踊る」という短編集を読んで、これが今でも一番好きな作品になって、それから一年くらい熱心に村上春樹の本ばかり読んでいたんだけど、ある日突然ウエっときてまた止めてしまった。飽きたのです。
さいきん、内田樹の「村上春樹にご用心」という評論集を読んだら、すごく村上春樹が読みたくなって、ふたたび自分の中でブームが起きつつある。これまで避けていたエッセイなんかも読み始めて、はじめてこの人がどんな人なのか、少しわかってきたのでおもしろい。と、同時に内田樹の本によると、日本の批評家達が村上春樹をコテンパンに叩いているらしいので、おもしろそうだからそれもちょっとずつ読んでいるけど、今のところピンとくる批判はなくて、道ばたの酔っぱらいのような言いがかりとしか思えない批判ばかりなのでびっくりしているだけだ。それでも、石原千秋先生のもの(授業を受けたことがあるからなんとなく先生をつけてしまう)はけっこうおもしろいけど、それでも「村上春樹は胸の大きい女の方が小さい女より価値があると思ってる、これは女を同じ人間ではなくモノとして扱っている証拠だ」(かなり要約したのでちょっと乱暴な論旨になってるかも)というのはちょっとうーん、、、と考え込んでしまった。すべての作家がそこまでジェンダー・コンシャスネスがしっかりしてないと、批判されなければいけないんでしょうか。村上春樹だから批判されたとしか思えないんですが・・これが、たとえば、胸が大きい女が沢山出てくるフェリーニの映画作品とかで考えてみて、それで映画自体の価値が落ちるんでしょうか?そのくらいは、許してあげてもいいんでは、先生・・・。