オカモタロウ

まだまだやることはあるのに本誌の入稿が終わってなんとなくふぬけた気分になって、土曜日は一日中寝ていた。
日曜日も昼まで眠って、夕方から無力無善寺へ。月一恒例のボーナス・ステージのため。この企画にはここのところハズレッシブとして出ていたが、今日は半年ぶり、ひさびさに俺はこんなもんじゃないが出る。ここからがこの一日とてつもなく長かった。
ツタヤで「流れ者図鑑」を返し、無力無善寺に行くと、一年近く続いたイベント名「ボーナス・ステージ」はなぜか、同居人の気分で突然「オカモタロウ」に改名されていた。(結局それから起きた事はこのイベント改名によって、画数がかわったせいだ、という結論に達する。)
半年ぶりに演奏する我々の「ホーム」無善寺は、お客さんも満員。ステージが狭いおかげで一人一人の音がきちんと聞こえ、音は大きすぎず小さすぎず、密着感が大きな波のように演奏の熱気と客の熱気を一体にして、演奏していて最高に気持ちのよいライブだった。ここで一気に盛り上がって、この後のファロピアンも無善寺初出演とは思えない場所を生かした、かっこいい演奏をする。
次の「愛のために死す」は前回暴れてここの機材をぶっこわしたとかで、厳戒体勢のライブ。弦人君が暴れまわるスペースを作ったこともあり、無事になんとかライブ終了。メンピスのゆるゆるのタンクトップと最後の曲が心に残った。はじめて見た灰緑はとても不思議なバンド。皆今回はじめて見た人がほとんどだけど、大盛り上がりに盛り上がって、すべてのライブがよかったので、会場の熱気は以前ここで行われた「日本ロックフェス」を思い出す程盛り上がる。
最後はDJじゃみへんさんでいつものようにほのぼのとした感じで終了と思いきや、会場の熱気に煽られたのか、なぜかじゃみへんは、曲を流さず上半身裸で痩せこけた体を自分で叩きまくって大声を上げるパフォーマンス。ひたすら叫んでいる。たまに客から「じゃみへん」コールが起きる。テンションが上がったじゃみへんはまずアンプ一個を飛び越え、また叫ぶ。裸のじゃみへんが照明にぶつかって「アチチ」と飛び上がり、皆大笑いして、店主無善法師の機嫌も最高によくなる。
そうしたら何を思ったのか、じゃみへんはアンプを二個重ねてそれにめがけてジャンプ。当然飛び越えられなくて、上のアンプを思いっきり蹴飛ばしたのだ。
すると、瞬間移動のように無善法師が飛んできてじゃみへんの髪の毛をつかんでぶん殴る。無善法師は普段から機材を壊されまくって困り果てているので、最近ここは店内中「機材壊すな」というはり紙だらけなのだ。どうしてそこでそんなことをやるのか。「うちはがんばって安い金でやってんだよ、機材壊すなよ」「機材費とかとってないんだよ、よそと違って」「それだってこの間壊れたから買ったばかりなんだよ、そうやってまた壊れるんだよ」という法師の言い分は120%正しかったため、誰も殴る法師を止めない。じゃみへんは法師に髪を掴まれたまま正座させられ、店内の注意書きを読まされる。それも皆、誰も止めず見ている。店内シーンとした空気の中、正座させられて殴られている上半身裸の26才男と怒り狂っている(しかもミニ丈ワンピースで)52才男。大変な光景だけど面白すぎる。誰も笑わなかったのが奇跡だ。
じゃみへんがあまりにも無抵抗で、チョット罪悪感を持ったのか法師は、注意書きを読んだら急に気を取り直し、「まあ、そういうことで機材は大切にしようね」と言ってじゃみへんを抱き締めて仲直り。これであーやれやれとイベントが終わるかと思ったら甘かった。法師が仏心で「マーなんか一曲かけてよ」と言ったのだ。言わなきゃよかったのに。
じゃみへんが戸惑いつつSPEEDのボディアンドソウルをかけると法師はおもむろに木の台をセッティングし、上に乗って、ミニスカートをめくりながら踊りだしたのだ。客の凍り付いた空気を晴らすため、怒りはまだあるだろうに笑顔で踊る法師。なんていい人なんだ、と思ってわたしなんか涙がちょっと出てしまった。
しかし、この日はこれで済まなかった。曲も終盤、木の台のセッティング場所がよくなかったのか、突然木の台が倒れ、法師はドサッとまるで物のように落ちてしまったのだ。右半身をもろに地面に叩き付けられてしまったのでとても痛そうだ。それでも無理して笑ってちょっと踊ってる法師。えらすぎる。
ライブが終了して、片付けをしていると、法師が痛くて痛くて立てないという。最初は「明日病院行くよ」と言っていたがとても歩けそうにないので救急車を呼ぶことに。救急隊員が来ると「清水浩、52才」「ちょっと踊っていたら台から落ちまして」などと本名を言ったり説明している法師がかなり哀れだった。救急隊員も「その格好(ワンピース)でいいの?」と戸惑いつつ、「ここ何の店?」などと好奇心をかくせないのでなんだか緊張感がない。法師が記念写真撮ってよ、とはしゃぐので写真を撮ろうとしたときも救急隊員の人は怒るかなと思いきや「写真撮るんだって」と、どいてくれたりなんだかのんびりいていた。結局複雑骨折で入院一週間。記念にとった写真の中の、担架で運ばれて行く法師はなぜかとても幸せそうな笑顔だった。