毎日が文学散歩

金井美恵子の「文章教室」を読み返す気になったのは、ものすごくひさびさにバルトの「恋愛のディスクール」を読んだからで、これを読んでいつも、「文章教室」の中に出てくるユイちゃんに恋をする現役作家をなぜか思い出す(この現役作家のヘボさがわたしは大好きなのだ)からなんだけど、そうじゃなくても「文章教室」、「道化師の恋」、「小春日和」、「彼女(たち)について私の知っている二,三の事柄」の目白4部作に「恋愛太平記」は年に何回も読み返してしまうくらい好きな本だ。
目白4部作がどうしてこんなに好きかといえば、何年か前に鬼子母神の近くの小さい出版社でアルバイトをしていたので、ここに出てくる風景がはっきりと思い浮かべることができるからだと思う。おとめ山公園やら、ボストンやら、鬼子母神商店街やら、池袋まで明治通りに沿って歩いて行くと西武が延々と続く感じや、ボザ−ルはわたしがバイトしていた頃はもうなかったけど、こんなにはっきりと小説を読んでいて風景が頭に思い浮かべられる作品は他にはない。
わたしは堪え性がなく、すぐ飽きてやめちゃうので学生時代、ほんとにいろいろな所でアルバイトをしていたけど、鬼子母神は場所としては一番好きだった。バイト自体はセクハラじじいの社長に、プロレスラーのような巨体かつ本当に怖い女の上司に常に見張られ昼食まで一緒に行かなければならず(その上司は昼から肉のハナマサの焼肉たべ放題で大ジョッキのビールを飲んだりする)まあ、あんまり楽しくなかったけど、それでもお気に入りのカフェがあったのと、場所が好きだったというそれだけで、1年くらい働いたと思う。
朝、学校で授業を受けてその後都電に乗って会社に行ったり、会社帰り馬場まで目白4部作の場面を訪ね歩く文学散歩をしたりして、ああここはなんて良い所だ、といつも思っていた。明治通りをちょっと入っただけでガラっと風景が下町っぽくなる感じが好きだった。目白駅前のごちゃごちゃしつつ殺風景な感じも好きだった。今となっては目白4部作はあー目白が懐かしい、という気分に浸るためだけに読んでいることもある。変わった使用法だとも思うけど。