Super Happy Fun Land

こっちに来てから「15日はヒューストンのスーパーハッピーファンランドでライブだ」というと人は皆一様に「ああ、あれね」と微妙に笑ったような表情になるのだけれども、これは東京は高円寺にある彼の地(無力無善寺)に対する人々の反応と全く同じだ。というわけでレンタカーを借りてヒューストンへ向かう。
ヒューストンへの道はだだっ広くて、どこまで進んでも両脇には規則正しくもぐもぐと草を食べる牛ばかり。たまにでかい星条旗ウォルマートがあるばかり。こっちで聞こうと思ってわたしはCDをたくさん持って来たのだけど、スティービー・ワンダーも、エリスアンドトムも、モータウンすらお呼びでないという感じ。「あー、ニールヤング持ってくればよかった!」と死ぬ程後悔する。しかしこっちでは音楽は「好きで聞く」というよりは「生きるのに不可欠」なんだろうなと思った。延々と続く牧場ではカントリーがないと生きていけないことを心底理解する。
この頃わたしの食べ物ストレスは頂点に達しており、タコスを食べている人を見ただけでも睨むほどであった。それなのにどっか適当な田舎町でハイウェイを降りた我々はまたメキシコ料理へ。男どもは完全にメキシコ料理の虜となっているのだ。しかし、この店はど田舎のファミレスみたいな外見の店だったけど、今まで入ったメキシコ料理屋の中で最もおいしかった。
サルサソース(トルティヤチップス添え)→これはタダでいくらでも出てくる
ワカモレ
・エビのココナッツ揚げ(甘すぎて食べれなかった)
・エビのベーコン巻き(ものすごいおいしさ)
ビーフファフィータとトルティー
・骨付きビーフステーキ(狂牛病になりそうな物体。照り焼きソースがかかっている)
・アイスティー(いくらでもついでくれる)
を皆でシェア。ここのウエイターのおやじは日本人を見るのがめずらしいようで、用もないのにチョコチョコやってきてはいろいろと話しかけてくるのがおかしい。いい店だった。せっかく降りたからウォルマート見物。ばかでかい店の真ん前には行方不明の女の子の写真が山ほど貼ってあった。アメリカだ。HEBで肉の塊やバケツ大のアイスなど見物してまた車に乗る。
ヒューストンが近くなったころカーステレオのラジオからはボブ・ディランの「ライク・ア・ローリングストーン」がかかって車内は一気に盛り上がる。
Super Happy Fun Landは、ヒューストン郊外の工場の真ん前にある。外見はタダの家にしか見えない。中はやっぱりというか、何と言うか完全に無力無善寺であった。大きさが無善寺よりデカイだけ。どこもかしこもかなり気合の入った汚さ。(ここでは演奏中さすがに靴が脱げなかった。)猫が3匹いてすごくかわいい。今回このハコを紹介してくれたフィリップ・ゲイルと再会する。彼は実家がヒューストンだとのこと。
蚊と、無数の蚊トンボ(とその死骸)が店のあちこちにあったので、虫にさされないか心配になって店の人に聞いたら彼らは蚊トンボを指差し「あれは蚊を食べる。だからわたしたちのフレンドだ。だから蚊には刺されないと思う」と言われる。「I see.」と言うしかなかった。
ここは食事はタダ。ビールは寄付制になっている。
・辛いトマトスープ(とんがりコーンみたいなスナックと、チーズをかける)
・ビール
野菜たっぷりでとてもおいしいが、なぜお菓子をスープに入れるのか。段々ビールもイヤになってくる。お茶が飲みたい。みそ汁が飲みたい。
ライブは無善寺だと思ったら全然緊張しなくて日本にいる時と同じようないいライブができた。客もほとんどいなかったが全員大盛り上がりで、店の人もかなり気に入ってくれたようだった。しかし、演奏中になんとゴキブリが膝の上に乗って来て、そのことに気付いた時はもう失神寸前だった。が、「これは外国の虫。きっと知らない虫に違いない」と思い込むようにしてなんとか耐えた。ゴキブリは走っていった。結局本番中ゴキブリは2匹ステージの周りを縦横無尽に駆け巡っていた。これは無善寺でもありえないことだ。ゴキブリ後の演奏は若干、集中力に欠いていたかもしれないが続けただけも偉いと自分では思った。
そしてここで一泊。これが一番キツかった。ゴキブリが怖くてほとんど眠れない。おまけに同居人が外からシベリアンハスキーのような野犬をドアの前まで連れて来てしまい、そいつがドアにアタックを繰り返してるし、(あんなのに噛まれたら絶対死ぬ)変な奴はウロウロしてるし、マジで恐ろしかった。
泊まるのはイヤだったけど、店の人はほんとにいい人で、よいハコであった。アメリカの無善寺で、わたしらのホームだ。