永田

イツロウ君の出したコンピ「青い花」のレコ発を見に高円寺無力無善寺に行く。最初のバンドはいつ果てることもないくらいの長さを感じる演奏だった。狩生さんのギターソロは普通にとてもよかったが、その後のアンコールのドラムソロでなぜか叩きながらオウムの空中浮遊を思い出すようなへんな感じで飛び跳ねていて、笑ってはいけないと思ったけど笑ってしまった。本人も笑っていた。そのあたりから笑いの要素がイヴェントに押し寄せてきて次のポスポス大谷さんはポスポス大谷という名前で、ライブ中「ポスポス」と言う、大変かわった方だった。いつ「ポスポス」と言うかが楽しみであった。
そして、ハズレッシヴの永田が登場した。一曲目はギターのループをいくつも重ねて、それにメトロノームを載せるという演奏だったんだけど、どのループもかみあってなくてすべてが微妙にずれていて、しかし、そのことで特別な効果も生まれてないようにも思え、かなり意味不明な曲だった。その後も何曲か演奏して、タラチネの曲をやりはじめた。ギターのチューニングは最初からズレていたけど、曲のたびに少しづつ直した結果、その曲のときには相当に絶妙に気持ち悪い感じでズレていた。人間チューナーのよっしーさんだったら吐いていたかもしれない。そのズレた音程でループが重なっていって、タラチネのオリジナルバージョンを知っているわれわれとしてはよくそのバックの演奏で歌えるな、というほどの不協和音ループが鳴り響いていた。すると突然、永田が倒れてアンプが倒れた。アンプについては永田は始まる前になぜかアンプをドラム椅子の上に置いていて、「不安定であぶないな」と思っていたら予想通り倒れたのだった。そういうわけでアンプは倒れて当然だともいえるけど、なぜ永田が倒れたのか全然わからない。しかもアンプと同時に。本人もわからないらしい。操り人形みたいな感じでこけたのだ。倒れた永田が起き上がって、アンプを起こして演奏は続行された。機材の転倒にはいつも激怒する法師も事故だから怒らなかった。そこから世界が一変した。それまでと全く同じ微妙に気持ち悪いループに永田の歌が載っているという状態だったはずなのに、面白くて面白くて仕方がないのだ。我慢できずに笑ってしまった。そして気づいたらお客さんのほとんどは爆笑していた。一人だけ大いびきをかいている客がいてそれも死ぬほどおもしろかった。数人の観客の大笑いと一人の大いびきをバックに永田は真剣な顔で歌い続けていた。こうなるとハンサムな顔なことも面白くて仕方がなかった。
その後のイツロウ君のライブもとてもよかったけど、ライブ終了後の会場は永田の話題でもちきりであった。「あんな残念なライブは初めて見た」と下野さんは言っていた。全くその通りだ。ひさびさに無善寺の魔力を見た。
しかし、あのおもしろさは永田が150%一生懸命だったからこそ生まれたんだと思う。すごい奴とバンド組んでるなあわたしは、と思った。そう永田君に伝えたら「少しも褒められてる気がしないし全然うれしくないけど、全くもって言う通りだと思う。」と言っていた。