THIS IS IT 大里先生のこと

T・ジョイ大泉にTHIS IS ITを見に行く。こんな所があること最近知ったのですが、家から自転車で行ける距離に映画館があるのはとてもうれしい。今年の夏行われるはずだった公演のリハーサルのドキュメンタリーなんですが、マイケルが決して大御所っぽいふるまいをせず、自分に厳しくスタッフに繊細すぎるくらい優しいのが印象的でした。何億分の1といっても足りないくらい、スケールは小さいけれどこういう現場を体験したことがある人間として、マイケルが踊っている姿を客席で見ているダンサーたちがものすごく楽しそうに盛り上がっている様子とか見ると、いろいろあっただろうけどすばらしい現場だったんだろうなあと思うし、逆に、このダンサーたちは結局本番では踊ることができなかったんだなあと思うとものすごくやりきれない気持ちになります。こうやってリハーサルが映画の形で公開されることをマイケルが喜んだか分からないけど、せめてもの救いになっているような気がしました。
東良美季さんの日記で大里俊晴先生が亡くなったことを知りました。大里先生は横浜国大から講師として来ていて、わたしは学部が違うこともあり授業を受けたことはないのですが、同居人が受講していてすごくおもしろいといつも言っていたので興味を持って「ガセネタの荒野」を読み、ものすごい衝撃を受けたのでした。ぎこちないともいえる独特な文体も、内容の強烈さも、何年たっても薄れません。大里先生は大学教授だけど、研究者として「ことば」の世界で何かをやっていこう、と思っていたわたしが、紆余曲折の末、音楽の世界に来て、まだ批評の俎上に載せられていない、いわば「ことば」になっていないようなものに興味を持ち、その中にどっぷりつかって「漫想」や、俺はこんなもんじゃないなどの活動などを続けているのは確実に大里先生の影響の下だと勝手に思っているのです。だから教え子ではありませんが「先生」と呼ばせていただいているのです。心よりご冥福をお祈りするとともに、どなたか「ガセネタの荒野」を再版してくれないだろうか、と願っています。わたしも大学の図書館で借りて読んだきり、現在絶版らしく、手元にないのです。ちくま文庫あたりいいと思うけどなー。